PULSATING LIGHT · 2026

CREATIVE PROCESS

土に眠っていた根が、光を纏うまで。制作の記録。

01

木の選定

まずは、ベースとなる木を探した。海や川へ探しに出たが、良さそうなものを見つけることができなかったため、ショップで購入することにした。店の床一面に大量に並べられた木の中から、大きさとフォルムを重視して選定した。選んだのは、目の詰まった非常に硬質な、スマトラ産の木の根だ。

02

木の加工

表面が古い樹皮に覆われていたため、工具を使って丁寧に取り除いていった。さらにその上に漆を塗り、コーティング処理を施した。漆は本来、何度か重ね塗りを繰り返すことで、あの独特の艶感を出すものだが、今回はあえて塗りを一回にとどめ、木の風合いを残した。

03

簡易的な3Dスキャンと3Dプリント

衣装デザインやパーツ制作を検討していくにあたり、本物の木と同じサイズの木が必要になり、3Dプリンターによる造形を試みた。フォトグラメトリの要領で木をスキャン。プリンターから出力できるサイズに制限があったため、データを分割して出力し、あとから組み立てている。

04

衣装デザインの検討

衣装デザインを考える。同時に照明機構についても、どこをどのように光らせるか、技術的に可能かどうかを含めて検討を進めた。大まかな形状をスケッチに起こし、それをもとにCG上で詳細なデザインを考えている。当初は根の部分すべてに黒い漆加工を施し、ひび割れた部分に金継ぎ加工をする案も出ていたが、木本来のディテールを重視することを優先し、却下された。

デザインスケッチ
初期のデザイン案。枝全体を黒い漆で覆い、金継ぎのような伝統的な加工も検討していた
枝にラインLEDを沿わせた場合のシミュレーション
服自体を光る素材で制作すると、どう見えるかのシミュレーション
05

衣装制作 / R&D

江端さん、DANさんによる衣装チームが、仮デザインをベースにR&Dを進めた。ダウンジャケットのボリューム感や、しわの表情をどう表現するか。服としての機能性を保ちつつ、どう組み立てていくのか。課題は山積みだった。R&Dを進めた結果、衣装はパーツごとに分けて制作することにした。分割したパーツをつなぎ合わせることで、ダウンジャケット独特のモコモコとしたディテールを表現していく。各パーツの土台となる、木の形状に沿った薄いパーツ(皮膚パーツ)が必要になり、3Dプリントで用意することになった。

06

衣装の最終デザイン

衣装の最終的なデザインが決定した。服飾デザイン専用のCGツールを用いて、布の柔らかさや膨らみなどの細かなパラメータを設定した上でシミュレーションしている。本来、CGツールとはいえ、実際の服飾制作と同じように二次元の型紙から服を立ち上げることが想定されている。しかし、木の形状があまりにも複雑なため、実際に木のモデルへパーツの境界線を描き込んでデザインしていった。

皮膚パーツの境界を、3Dモデルに直接描き込む
描き込んだ境界に面を貼る
布の柔らかさや伸縮率などのパラメータを調整し、ボリュームのある服をデザイン。実制作の指標となるビジュアルが完成した
07

本番用の精巧な3Dスキャン

照明チームと樹脂の枝について検討を進めた。柳沢さんの提案で、株式会社日南に木を持ち込み、本番用の精巧な3Dスキャンを実施することに決めた。自前で制作していた3Dモデルは、プリンターの特性や、分割して出力している都合上、どうしても誤差が出てしまう。樹脂と木の接合など、細かな機構設計を進める上で、その誤差が問題となるためだ。日南は、プロトタイプ制作の最前線を走り続ける、最先端の設備と職人たちの確かな技術を持った会社だ。

08

ベースパーツと熱対策パーツの設計

3Dスキャンと同時に、どの枝を樹脂の枝に置き換えるかをCG上で検討していく。LEDを仕込んだ際の光漏れをコントロールするため、遮光テープ(図の赤い箇所)を貼ることにし、その実際の見え方もCG上で再現している。熱対策として、LEDと衣装が直接触れないよう、厚さ4.5mmの嵩上げパーツを設計し、その上に厚さ1.2mmの皮膚パーツを重ねる構造とした。この嵩上げパーツの設計は、非常に難航した。わずかなめり込みも許されないためだ。コンマ数ミリ単位という、普段は気にすることもないレベルでの設計は、神経を使う作業だった。

樹脂の枝の置換位置と、遮光テープのシミュレーション
4.5mm嵩上げパーツの設計
1.2mm皮膚パーツの制作
皮膚パーツと嵩上げパーツの誤差が限りなく小さくなるよう設計
LEDまわりは、熱がこもらないよう空気に触れやすい設計に
樹脂の枝の中には、光の影響を受けやすい素材で気泡を注入
09

3Dプリント出力(皮膚パーツと嵩上げパーツ)

皮膚パーツと嵩上げパーツを出力した。熱対策として、難燃性のフィラメントを使用している。嵩上げパーツは形状が複雑なため、出力に何度も失敗した。難航を極めた設計と出力だったが、すべてのパーツがぴたりとはまったときの感覚と、デジタルだったものが実際に造形され、目の前に現れるあの感覚は忘れられない。

皮膚パーツの出力。全部でおよそ50パーツにのぼる
嵩上げパーツは、皮膚パーツにぴたりとはまる
10

3Dプリント出力(枝)と木の加工

柳沢さんにスキャンデータを整えてもらい、日南にて樹脂の枝の出力を進めてもらった。サポート付きで出力したのち、研磨している。さらに、照明機構を取り付けるための処理を木に施し、接合箇所の余分な木を切断した。実物とまったく同じ形状をした、美しい樹脂の枝が出力された。

11

樹脂の枝の取り付けとLED機構の設置

さらに日南にて、樹脂の枝を取り付ける箇所の加工や、LEDの熱を逃がすヒートシンクを取り付けるための加工などを進め、照明機構の最終確認を行った。

12

パーツの組み立てと配線

衣装チーム、照明チームの全員が集まった。この日までにそれぞれが準備を進めていた、衣装を除くすべてのパーツが持ち込まれた。一気に組み立てていく。自然の造形物だった木の根が、みるみるうちに職人たちの技術の結晶を纏い、姿を変えていった。

13

衣装の実制作

ここからは衣装チームによる作業だ。ダウンジャケットとしての見栄えを重視して進め、ファスナーやボタンといった小物も取り入れて、木が服を着ているというコンセプトを見事に形にしている。江端さんの経験に裏打ちされたアドリブも効いており、これまでに見たことのないビジュアルが生み出された。

服は着脱できる仕様。ファスナーを外すと、洋服のように脱がせることができる
14

照明のプログラム制御

照明機構の設計とプログラミングは、平田さんが担っている。5本の枝の光り方を、個別にプログラムで制御。視線誘導を考慮し、全体のバランスを見ながら一本ずつ光量を調整した。光るタイミングと長さもプログラムで制御しており、それぞれがゆったりとランダムに明滅しながら、あるタイミングで5本が同時に力強く輝き出す。生命が呼吸しているかのような脈動を演出している。

15

コンセプトムービー / 撮影

作者が活動の拠点としている宮城県内に限定し、人の手が加わっていない、より原始的な森の表情をとらえるため、ロケハンを重ねた。理想の場所はなかなか見つからなかったが、根気強く探し続けた。ある日、ふと立ち寄った山あいで理想的な場所に出会った。撮影は、日が暮れる間際から、暮れきるまでの時間帯を狙った。撮影は塩川さんが担い、i.cebergチームの北畠と石川もサポートに駆けつけた。山には深い霧が立ちこめ、日のあるうちはとても美しかったが、日が暮れると、闇に吸い込まれるような恐ろしさがあった。神秘的で、印象に残る森だった。塩川さんは、その森の表情をしっかりとカメラに収めていた。

16

コンセプトムービー / サウンド

サウンドデザインは光森さんが担っている。部屋中、所狭しとさまざまな機材が置かれていた。風の音や川のせせらぎ、唸るような轟音など、すべてのサウンドをシンセサイザーとサンプラーで制作している。光の表現には、電磁シンセサイザー「Chromaplane」を使用している。本体に電磁ピックアップコイルを近づけることで音を奏でる、演奏性を重視した楽器である。デジタル機器ではあるが、音を奏でるその所作には、強い人間味が感じられた。サウンド制作のプロセスにも、作品と共通する思想が宿っていた。

← PULSATING LIGHT に戻る