森の中に足を踏み入れると、生と死が混在していることに気づく。植物も生物も、すべての有機物は役目を終えると土へ還り、やがて微生物や植物の養分となり、成長し、そしてまた土へと還っていく。土は、その循環のスタート地点であり、ゴール地点でもある。生命の始まりと終わりが重なり合う場所。その境界は曖昧でうつろい続けるが、曖昧であればあるほど、森はより豊かに見えてくる。
PULSATING LIGHT は、その見えない豊かさに目を向ける試みである。
作品の中心にあるのは、複雑に枝を伸ばした木の根である。磨かれ、漆を纏ったその根は、一部が透明な樹脂の枝に置き換えられ、内部に仕込まれたLEDが独立してランダムに明滅することで、枝そのものが呼吸しているかのような光を放つ。
根は普段、土の中に隠れ、その姿を見せない。この作品はあえてその見えない存在に目を向けている。根を覆うダウンジャケットは、服が持つ本来の文脈を纏いながら、土壌という概念を体現する。
作品はオブジェクト単体として完結するものではなく、置かれる場所の文脈を纏うことで表情を変える。いのちの循環の始まりであり終わりでもある土のように、ジャケットは根を柔らかく包む。そして服である以上、脱がせることも、着替えさせることもできる。置かれる場所に応じて服を着替えながら、作品は、その場所と対話し続けるシステムとして構想されている。
木の根
複雑に枝分かれした一本の木の根を、そのままの姿で用いている。表面を丁寧に磨き上げ、漆を塗布することで、木肌の表情と漆の艶やかさが溶け合い、時間の堆積を感じさせる仕上がりとなっている。
樹脂枝
根のうち5本は、透明な樹脂に置き換えられている。それぞれの根元に小型のLEDを仕込んであり、点灯すると枝全体が内側から発光しているように見える。LEDはそれぞれ独立してランダムに明滅を繰り返すが、ある周期で、すべての光が同時に強く輝く瞬間がある。ばらばらだった光が、ひとつの拍動にそろう。脈打つ光である。樹脂の内部には血管を思わせるツリー状の気泡が封入されており、LEDが灯るたびに浮かび上がるその模様が、有機的な生命の気配を作り出している。
ダウンジャケット
根を覆うダウンジャケットは、すべて服飾職人の手で仕立て上げられている。土のメタファーとして中綿を十分に詰め込んであり、ふかふかと柔らかい。生地には、アウトドアウェア用のしっかりとした機能的なものを使用した。その機能は、屋内よりも自然の中に置かれたときにいっそう際立ってくる。ジッパーやボタン、リブといった服飾的なディテールを取り入れ、人間が着る服と変わらない着脱の機能を持たせている。
制作には、多くのテクノロジーを取り入れた。木の根の3Dスキャン、3Dプリント、CGによるパーツ設計、クロスシミュレーションを用いた衣服デザイン、AIを用いた照明制御プログラムのコーディング、そして照明機構の設計。作品の内側は、現代の技術によって緻密に組み上げられている。
ただし、その過程は一方通行ではない。制作は、デジタルとフィジカルのあいだを何度も行き来しながら進んでいく。3Dスキャンしたデータを3Dプリンターで出力し、実際の造形物として手に取ってみて、初めて見えてくるものがある。画面の中では気づけなかった問題点が見つかることもあれば、思いがけないデザインの着想が生まれることもある。
ジャケットのデザインも同じである。PC上で布のふくらみやシワの寄り方をクロスシミュレーションで検証しながらデザインを起こし、その案を服飾職人に渡す。職人は、長い年月をかけて習得してきた縫うという手仕事の経験を重ねて、案をさらに良いものへと仕上げていく。デジタルでデータを起こし、人の手で形にしていく。この過程そのものが気に入っている。
テクノロジーは見えないところで脈動し、手仕事がそれを包み込む。この順序が作品の核心にある。AIがあらゆる制作の場に入り込んできている今だからこそ、鑑賞者が最初に出会う表層に、人の手の仕事を置くことを選んだ。
デジタルとフィジカルを行き来するたびに、手仕事とテクノロジーの境界は曖昧になり、そして表現は豊かになっていく。
土に眠っていた根が、職人の手と技術によって光をまとうまで。
作品は、これからも姿を変えつづける。今後は、ふたつの方向への接続を構想している。
現在の明滅は、設計されたリズムである。これを、実際の森の土壌に設置したセンサーや、作品が置かれた都市の環境データと結ぶ。生きたデータと結びつき、今まさに起きている生命活動の翻訳として、光は脈打つようになる。
設置された土地ごとに、その場所の空気を映した新しい服を仕立てる。都市の呼吸を反映した生地、光によって模様が浮かび上がる素材。土地が変われば、作品の纏う姿も変わっていく。
そして作品は、時間の中でもうつろっていく。漆の艶も、生地の風合いも、年月とともに変わる。服は着替えられ、置かれる場所もうつろい、作品はそのたびに違う表情を見せるだろう。
生と死の境界は、曖昧なままうつろい続ける。そしていま、人間とテクノロジーの境界も、同じようにうつろい始めている。境界は、曖昧になるほどに豊かになっていく。そのふたつのうつろいが重なる場所で、作品は拍動し続けていく。
- Planning / Director / Designer
- Takuma Sasaki
- Costume Designer
- Koshiro Ebata
- Stylist
- DAN
(kelemmi)
- Lighting Planning & Design
- Satoshi Yanagisawa
(Triple Bottom Line) - Lighting System & Mechanical Design
- Yoshihiro Hirata
(R2) - Technical Support
- NICHINAN GROUP
- Creative Director
- Ryo Kitabatake
- Producer
- Ko Yamamoto
- Project Manager
- Ren Ishikawa
- Yuya Shiokawa
- Cinematographer
- Yuya Shiokawa
- Colorist
- Toshiki Kamei
(ARTONE FILM) - Color Assistant
- Yuta Nakano
(ARTONE FILM) - Sound Design
- Takahisa Mitsumori
作品を構成する一つひとつの要素に、各分野のプロフェッショナルが培ってきた技と誇りが息づいています。



